
こんにちは!
薬剤師歴10年超のコグレハルコです。
薬剤師たるもの、患者さんが持ってきた処方箋の調剤は断れない。
そう思っていませんか。私はずっと、そう思っていました。
応需義務があるんだから、どんな人でも断れないのでは。大学で、そう習った!
そう思うよね?
2026年7月8日、厚生労働省が「薬剤師の調剤応需義務等について」という通知を出しました。
そこには、こう書かれています。
調剤応需義務は、薬剤師が国に対して負担する公法上の義務であって、患者に対する私法上の義務ではない。
つまり、あの義務は目の前の患者さん個人に対して負っている訳ではなかった、ということです。
そのうえで通知は、カスハラによって患者さんとの信頼関係がすでに失われていると認められる場合には、調剤の求めを断ることを正当化できるとしました。
そして2026年10月1日からは、カスハラへの対応が会社の義務になります。
先に結論(2026年9月時点)
・調剤応需義務は “ 国に対する義務 ” であって、患者さん個人に対する義務ではありません(2026年7月8日 厚労省通知)
・カスハラで信頼関係が失われたと認められる場合、調剤を断ることは正当化されうる
・ただし一律ではありません。病状の深刻度・時間帯・信頼関係を踏まえて個別に総合判断します
・2026年10月1日から、カスハラ対策は会社の義務になります
・労働者を1人でも雇っていれば対象で、中小企業の経過措置はありません
目次
カスハラという言葉に、いまだに馴染みがない
まず始めに、私は「カスハラ」という響きに、あまり馴染みがありません。
パワハラやセクハラは、働きはじめたころにはもう言葉としてありました。
でもカスハラは、ここ数年で急に聞くようになった言葉です。
だから自分の身に起きたことを、その言葉に当てはめて考えたことがありませんでした。
今思えば、あの時のいかれたクレームは間違いなくカスハラだったな。
十数年前、東京の下町で10分間罵倒された話
遡ること十数年前。
東京の下町で、私は管理薬剤師になったばかりでした。
門前ではない、少し離れた病院の処方箋を持って、たまに現れる方がいました。当時50代の男性です。
その日、たまたま薬が不足してしまい‥‥。
対応した私は、そこから10分ほど、罵倒され続けました。
一万歩譲って、薬が無いことへの怒りは、まだわかります。
でも、話は途中から薬のことではなくなっていきました。
なんか、顔のことも、けなされたんだけど。涙
それは、もらい事故。涙
あまりの勢いに、私はその方への対応が怖くなりました。
それでエリアマネージャーに相談しました。すると、不足していた薬を取りに来る日に合わせて、出勤してくれたんです。
もうすぐ10年経つ今でも、そのことを覚えています。
多分、あの有り難みと申し訳なさは一生忘れない。
あれはクレームだったのか、カスハラだったのか
長いあいだ、私はこれを「クレーマー、うんこすぎ。」と処理していました。
しかし2026年2月に厚生労働省が出した指針を読んで、あれはカスハラだったのだ!!!と、なんとなくそのワードが腑に落ちました。
カスハラか見分けるポイント
カスハラかどうかは、要求の “ 内容 ” と、その “ 手段 ” を分けて見ます。
指針は、カスハラを次の3つをすべて満たすものと定義しています。
- 顧客等の言動であって
- 業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたもので
- 労働者の就業環境が害されるもの
そして「許容される範囲を超えたもの」の例が、内容と手段・態様に分けて挙げられています。
【内容が超えている例】
- そもそも要求に理由がない、または商品・サービスと全く関係のない要求
- 想定しているサービスを著しく超える要求
- 対応が著しく困難、または不可能な要求
- 不当な損害賠償要求
【手段・態様が超えている例】
- 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
- 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
- 威圧的な言動
- 継続的、執拗な言動
- 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)
実際の私のケースがカスハラか考えてみる
これを自分の体験に当てはめると、こうなります。
| 起きたこと | どう見るか |
|---|---|
| 薬が足りなかったことへの苦情 | 要求としては正当。 ふつうのクレーム |
| 10分間、罵倒し続ける | 暴言・継続的、執拗な言動 |
| 顔のことをけなす | 業務と一切関係がない。侮辱 |
継続的な暴言を浴びずとも、顔のことをけなされた時点で、私の場合はカスハラにあたります。
正直、こっちも人間なんだから不足の薬があって罵倒されるなんて傷つくっつーの。
それは一理ある。
ちなみに指針には、電話やSNSなどインターネット上のものも含まれると書かれています。
そして「顧客等」には病院などの施設利用者も明記されています。患者さんは、はっきり対象です。
薬剤師の7割が経験していて、例に「容姿についての発言」があった
こんなことがあっても、下町の小さな薬局だったからかな、と自分だけの特殊な話だと思っていました。
しかし東京都薬剤師会が2024年11月に、会員薬局に対してカスハラの調査をした489件の回答を見ると。
- カスハラを受けた経験がある:69.1%
- 目撃した人を含めると:76.3%
7割です。
報告された例には、備品の窃盗、スタッフの盗撮、漂白剤をかけられた、物を投げられた、保健所に通報して営業できなくしてやるという脅し——そして。
「容姿についての発言」。
10年前に私が言われたことが、そのまま調査の例に。
私だけではありませんでした。
被害のあとの影響も出ています。
特に影響がなかったと答えた人が181人いる一方で、影響が続いていると答えた人が134人。
転職した人が5人、退職した人が5人、休職した人が2人、PTSDで通院している人が2人います。
いや、ほんと、あんだけ罵倒されたらPTSDになるよなって思うよ。
ハルコは、上司のおかげで救われたね。
相談先に迷ったときのことは、別の記事にまとめています。カスハラも、職場のいじめと相談先はほとんど同じです。
この調査を受けて、日本薬剤師会などが国に「応需義務の解釈をはっきりさせてほしい」と要望しました。
それが2026年7月の通知につながります。
カスハラなら、調剤を断れます(2026年7月8日の通知)
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
薬剤師法の第21条には、こう書かれています。
「調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあつた場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない」
私たちはこれを「応需義務」と呼んで、ほぼ絶対のものとして扱ってきました。
2026年7月8日、厚生労働省が「薬剤師の調剤応需義務等について」という通知を出しました。
ポイントは2つです。
① 応需義務は、国に対する義務であって、患者に対する義務ではない
通知は、応需義務を薬剤師が国に対して負担する公法上の義務であり、患者に対する私法上の義務ではないと明記しました。
少し伝わりにくいと思うので、要約すると。
公法は、国と個人のあいだのルール。
私法は、個人と個人のあいだのルールです。
薬剤師の免許を出しているのは国です。
応需義務は、その免許の条件として国から課されているものであって、目の前の患者さんと交わした約束ではない、ということです。
だから、「薬剤師には応需義務があるだろう」と言われても、それは患者さんが持っている権利ではありません。
断ってよいかを決めるのは、国が示した「正当な理由」があるかどうかです。
② カスハラで信頼関係が失われていれば、断ることを正当化できる
「調剤の基礎となる患者との信頼関係が、迷惑行為の態様に照らしてすでに失われていると認められるか」——ここが判断の軸になります。
拒否できる理由の例として挙げられているものには、次のようなものがあります。
- 暴力・威嚇行為
- 暴言・人格否定
- 執拗な謝罪要求・拘束
- 揚げ足取り・不当な追求
- 刑法上の犯罪行為
このほか、カスハラ以外の理由として、病気や災害などの物理的・身体的理由、疑義照会ができない場合、医薬品の調達に時間を要する場合、開局時間外の対応、悪意のある未払いなども整理されています。
ただし、「カスハラだから断っていい」ではありません
「正当な理由」があるかどうかは、次のような要素を踏まえて、個別の事例ごとに総合的に判断するとされています。
- 患者さんについて緊急の対応が必要か(病状の深刻度)
- 調剤を求められた時間帯
- 患者さんと薬局・薬剤師の信頼関係
つまり、同じ言動でも、目の前の人の病状が深刻なら判断は変わります。
そこは自分ひとりで決めるのではなく、管理薬剤師や本部と共有して決めることになると思います。
自分だけの責任にならないよう、上の人と相談することは大切ですよね。
2026年10月1日から、会社に義務ができます
そしてもう一つ、カスハラに対して法改正が行われます。
2025年6月に改正された労働施策総合推進法が、2026年10月1日から施行。
カスハラへの対応が、事業主の義務になります。
労働者を1人でも雇っていれば対象です。中小企業の経過措置もありません。
社長がひとりで切り盛りしている薬局も、対象です。
会社が講じなければならない措置は、指針で10項目に整理されています。ざっくり言うと、次の4つのかたまりです。
- 方針を決めて、伝える — カスハラには毅然と対応して労働者を守ると明確にし、周知する
- 相談体制をつくる — 相談窓口を決めて周知し、担当者が適切に対応できるようにする
- 起きたあとの対応 — 事実確認、被害者への配慮、再発防止
- 悪質なケースへの備え — 特に悪質なカスハラへの対処方針をあらかじめ定めて、対応できる体制をつくる
このほか、相談者のプライバシーを守ること、相談したことを理由に不利益な扱いをしないことも定められています。
なお、指針は消費者の権利や、障害者差別解消法における不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務にも留意するようにと書いています。
「カスハラ!」を口実にして、特定の患者さんを排除していいという話ではありません。
ここは間違えないようにしたいところです。
同じ日から、求職者に対するセクハラ対策も義務化されます。
就職説明会や面接、実習中の言動が対象です。薬学生の実務実習も、ここに入ります。
ちなみに、2026年10月は制度がまとめて変わる月です。
106万円の壁の話も同じ月からなので、パートで働いている方はこちらも見ていただけると嬉しいです。
「一人で対応させない」が義務になる。私は、一人でした
10項目の中に、会社があらかじめ決めて労働者に伝えておくべき「対処の内容」の例があります。
そこに、こう書かれています。
- 管理監督者にその場の対応方針の指示を仰ぐ
- 可能な限り、労働者を一人で対応させない
- 犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する
- 本社・本部等に情報共有して指示を仰ぐ
「可能な限り、労働者を一人で対応させない」。
私がカスハラにあっていた時、この一行があったら。
誰かがもう一人来てくれるという前提があったら。
顔のことをけなされる前に、代わってもらえていたかもしれません。
そう書いてあっても、難しいよね。あの罵倒されている場に来てもらうのも申し訳ないし。
でも、そういう共通認識でいることは大切だと思うよ。
決まりは無い。でも社長が対応してくれる
では、私が今勤めている個人経営の職場はどうか‥‥。
それが、カスハラについての決まりも、マニュアルも、ありません。(2026年9月時点)涙
ただ、何かあれば基本的に社長が対応してくれます。
これは、ありがたいことです。
困る患者さんがいる、と言えば出てきてくれる。
だから今のところ、特に不満はありません。
でも、書きながら気づきました。10年前と、何も変わってないなーと。
| ルール | 実際の対応 | |
|---|---|---|
| 10年前 | カスハラという言葉がなかった | エリアマネージャーが日を合わせて出勤してくれた |
| 2026年9月 | 決まりは無い | 社長が対応してくれる |
| 2026年10月〜 | 会社の義務になる | — |
10年経っても、現場はまだ人の善意で回っています。
エリアマネージャーが来てくれたのも、社長が出てきてくれるのも、
その人が「それは大変だったね」で終わらせずに、自分がその場に立ってくれる人だったからです。
上司が変わったら、どうなるのか。
10月から変わるのは、そこです。
善意でやってくれていたことが、会社の義務になる。
「対応してくれる人がいる」から「仕組みがある」へ。
うちの職場に必要なのは、仕組み作りだと思いました。
仕組みで明確になっていた方が、安心して働けるよね。
大手のほうが、たぶん先に動きます
ここからは、私の実感ですが。
こういうことは、大手のほうがしっかりマニュアル化されます。
人事や法務の部署があって、10月に間に合うように整えるからです。
私は、エリアマネージャーがいる会社にいたこともありますし、いまは社長が直接出てくる会社にいます。
法改正などへの動きの速さは、正直まったく違います。
今回のカスハラに関して言えば、「守られたい」という条件の上のほうに置くなら、規模の大きい会社のほうが有利だと思っています。
ただ、こういったハラスメントは、働く人同士のモラルによるとことも大きいと思っています。
中小でも、上司がスタッフを守ってくれる職場なら、悪くありません。
うちには決まりがありませんが、社長が出てきてくれる。それで私は困っていません。
問題は、それが運だということ。
上司が変われば、状況もまた変わる。
いい人がいるうちはいいけど、いなくなったらヤバいね。
そうなんだよね。だから10月に職場で何か対策をしたかは地味に大切だよね。
10月以降、その職場が実際に何をしたか
カスハラに関して、見るところは1つ。
方針を決めたか。相談窓口を作ったか。一人で対応させない、と言葉にしたか。
守ってくれる上司がいる職場なら、義務化をきっかけに、それを仕組みに変えられるはずです。
変えたなら、いい職場だと思います。人が良くて、仕組みもある。いちばん心強い。
何も起きないようなら、聞いてみるのが早いです。
「10月から義務になったと聞いたのですが、うちはどうなりますか」。
相談したことを理由に不利益な扱いをすることは、指針で禁止されています。
それでも何も変わらないなら——守ってくれる人がいなくなった日、あなたの精神的な負担が大きくなるかもしれません。
自分のメンタルに影響しそうなら、事前にリスクマネジメントしておくのも大切ですよね。
動くとしても、10月を見てからでいい
都薬の調査では、カスハラのあとに退職した人が5人、転職した人が5人いました。
逃げるという選択は、実際にとられています。
ただ、いま慌てて動く必要はないと思っています。
10月に自分の職場が何をするかを見てからで、間に合います。
そのうえで、半年以内に職場を変えたい気持ちがあるなら、見て欲しいところを2つだけ挙げます。
逆に、いまは情報収集だけという方は、登録しないほうがいいです。 (理由は、このあと)
セルワーク薬剤師の評判は?登録したら1分で知らない会社から電話が来た
なぜ情報収集だけで登録しない方がいいのか
転職サイトの担当者は、こちらの本気度に合わせて熱量を上げてきます。
本気で職場を変えたい方にとっては、これはありがたいことです。
求人を探してくれる熱量が高い人ほど、いい話を持ってきてくれます。
でも、「ちょっと見てみたいだけ」の状態で登録すると、その熱量が圧になります。
私は実際にそうなって、電話に出られなくなりました。苦笑
手厚さは、こちらの本気度と釣り合っていないと、しんどいだけです。
まとめ
- 調剤応需義務は、国に対する義務であって、患者さん個人に対する義務ではない(2026年7月8日 厚労省通知)
- カスハラで信頼関係が失われたと認められる場合、調剤を断ることは正当化されうる
- ただし一律ではない。病状の深刻度・時間帯・信頼関係を踏まえて、個別に総合的に判断する
- 2026年10月1日から、カスハラ対策は会社の義務。1人でも雇っていれば対象、経過措置なし
- 義務の中に「可能な限り労働者を一人で対応させない」が入っている
- 薬局薬剤師の69.1%がカスハラを経験(東京都薬剤師会・2024年11月・489件)
私は「カスハラ」という言葉に、まだ馴染めていません。
でも、あのとき自分が受けたものはクレームより上のカスハラだったんだ、と妙に納得しました。
名前がついて、会社がやることも決まった。それは、素直に嬉しいことだと思います。
怒鳴り散らかしてる相手に一人で対応するのは、本当に心が壊れるので。涙
出典
- 厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662576.pdf
- 厚生労働省 通知「薬剤師の調剤応需義務等について」(2026年7月8日発出)
- 東京都薬剤師会「薬局薬剤師に対するカスタマーハラスメントに関する調査」(2024年11月9日〜30日/489件)